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執筆者の写真加藤亮太

記号派 川口佳子展 「青と暮し 描き続けて、」 感想

更新日:2019年4月24日

 こんにちは。塾長・加藤です。

 春期講習が終われば、遠方の雪の上を撫でて通ってきたらしい芯の残る冷たさを乗せた風は、時折吹くけれど、すでに薄手の陽光をまとった風物は、生長が痒いかくすぐったいのかその身よじらせるごとく、街路の桜、花を散らして葉を芽ぐみ移り変わる、青葉したたる初夏に向け、ふつふつと膨張し続ける景色の嬉しき忙しさに、私は目を細め・・・


 といったように、ふと風趣に味わいを感じざるを得ない季節の到来でございます。


 さて、なぜ、かように、日常の自分をつい見失いかけて、詩的感興にうっとり気分になったかと申しますと、タイトルにございます「記号派 川口佳子展『青と暮し 描き続けて、』」をさっきみてきたから。松戸市稔台のあかぎハイツにて。

 その感想を述べさせていただきます。




 こちら、いつ訪れてもおもしろいので、私なんか週1以上は訪れてチェックを欠かせない本・文具屋、スモークブックスさん(今回のギャラリーの隣)企画の展覧会でして、それがやっぱりすごい企画なのです。


 何を隠そう、私はアート好きなのです。アート好きなので、すきを見ては、ちょいちょい、そういうものを観に出かけますが、この展覧会は、その経緯からして前代未聞ではなかろうか、とアート好きを公言してはばからないこの私は、思うのです。

私たちは 2019年はじめ、川口夫妻より 蔵書整理の依頼を受け 八千代市のご自宅に うかがいました。 (「ごあいさつ」より

 スモークブックスさんは古書店なので、蔵書を整理するお宅で古書を買い取るという流れが、日常の仕事の一環として、まずありました。

 今回は、しかして、その依頼者が、御年90歳を超す芸術家だったのです。

ご自宅の居間で ソファに腰かけた 十分に歳を重ねたお二人の後ろには 力強い構図と色で 私たちに迫ってくる とても 大きな画が飾られていました。私たちに にこにこと やわらかい表情で なんどもお茶をすすめてくださった おばあさまが 佳子さん。そんな彼女こそ 青の抽象画の作者でした。さらに 絵に 魅了され興味を持った 私たちは2階のアトリエに通され、二部屋にわたり膨大な絵が保管されていることを知ります。全貌を見たいと憑かれる思いが湧いてくるのがわかりました。(「ごあいさつ」より)

 今回の展示は、つまり、そうしたまさかの偶然の出会いから、芸術が、この春らんまんの温い日差しの下の若葉のごとく、うごめいて再び世に出てきたというわけです。芸術は、なんと、意図せずもうごめいて世に出るんですねえ。そしてやはり、萌えては枯れまた萌えいずる植物の命のよう、人間とは違って、永遠にうごめき続けるようです

 ・・・・・・

 おっと、またポエティックな感興に誘われてしまいましたが、なんせ、70年間もの時をかけて、一人の作家により製作されたものですから、もう、とめどないのです。


 企画のタイトルにあるように、印象的なのは、「青」でした。その強さでした。

 強さ、というのは、時空を超える強さです。

 発掘調査で出土した古代人の遺跡のようにも見えるし、あたかも先ほど製作したばかりかのような生々しさもある。感じたのは、今にもしたたるような青が、なのに、永続的にキャンバスにへばりついているという、その青の悲しみです。

 青の悲しみ、で思い出したのは、映画監督デレク・ジャーマンの遺作「BLUE」。あの途方もない青、宇宙まで昇華する魂を夢見るような青、それを感じたときと同じ種の青が、春の光に反射したか、べったり私の頬に反映するようです。

「蔵書整理」という、あまりにリアリスティックな名目であったからこそ、今回、川口佳子という作家の追い求めた何か、整理尽くせない何かが、迫りくるようです。私には、そうして青色の記憶がまたひとつ増えるのです。


 皆様もこのゴールデンウィークにご覧になって、時空を超えた川口佳子の青の世界に踏み込んでみてはいかがでしょうか。

 

  あかぎハイツ gallery 112にて 4月30日まで。

 

 5月10日からは同ギャラリーにて、

 「優しくあることを許して」久芳真純個展です。

 こちらも是非ともみにいきたいものです。

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