• 加藤亮太

宮地嘉六「老残」

最終更新: 2019年1月14日

 川崎長太郎にも同名の作品があったが、川崎のは「老いぼれても我が身にだらしなく残る◯◯◯」といった、自虐の色濃くも、痛々しくも的確に描いてしまうことで笑いを誘う、文章技術の円熟をみせられる様相で、宮地のは「老いてなお生き残る自分の存在意義」といった、より真正面から「私」を表現しているようだ。

 川崎が後発で、1961年発表。(当時作者還暦)

 宮地は1952年発表。(当時作者68歳)

 川崎は宮地を意識したのかしないのか、と言ったら、したに違いない、と読んでいたから、「その元ネタを読みたい」ファン根性で、ようやっと読んだが、とくにこれと言って、関連はないようだ。作者年齢も、68と60じゃあ、かなり違うから、「老」への感慨もぜんぜん違うように思う。なおさら、関連させるのは無意味なことかもしれない。


 宮地嘉六の代表作は、他に、「煤煙の臭ひ」「或る職工の手記」があるが、なかなか好きになれない。というか、深刻なルポを読んでいる以上の興に入らず、途中で投げ出してしまったのだが、本作は初めから終わりまで面白く読んだ。もともとのルポじみた文章が、ここへきて、老いへの自虐とあいまって、巧まずか企んでか飄々とした意味合いをかもしだし、面白くなるに至った、という感じ。

 また、性根の深刻癖が、まさしく「老残」、老いてなお人生への不満・憤怒・こだわりが残っている、その、隠し切ろうとしても、噴出してしまう、耐え忍びつつの叫びとなって伝わるところも良かった。川崎長太郎とはまた別種の、これも私には、飄逸の面白さ、と読んだ。あまりに飄然とした筆者の視点が、笑けてしまうのだ。

 人の遺恨を読んで笑う、というのは、私はよほど冷たい人間なのだろうか。

 違う。そういうふうに書いてあるのだ。


 引用する、下記の箇所だけでも、この作品の面白さをあらわすはず。


 なお、物語は終盤。

 戦後の混乱期のなか、酒を飲みたいと思いつつも、低俗で悪質ゆえ、好きに飲みまくることはできずにいた。しかしこの混乱のなかでも、年の瀬を迎えた。人生の来し方を、振り返り思い起こす気分になる主人公。とはいえ彼は、自分の過去は、許せないこと、ハラワタ煮え繰り返ることばかりで、そんな思い出に浸りたくはないのだ。だから、そんな年末気分など、主人公にとっては、不要だった。とそこへ、棚からぼた餅。ひょんなことから、上質な酒であるウイスキー、これが2本も手に入ってしまう。ウイスキー2本と、のし餅まで、整って、もはや年末気分にならずにはおられまい、懐旧気分に浸らずにはおられまい。人生を振り返るなんて、自分には無理、と思っていたが、図らずも、ここまでその感興への準備が万端となったか。もう、泣ける、そして、笑うっきゃない、彼にとって、それは毒だか薬だか、秘宝・ウイスキーを目の前にして、差し迫った面白さだ。

下記引用箇所は、ウイスキーが、手に入った瞬間の感慨を描いたところ。


「私はそのウィスキーを机代用のリンゴ箱の上に飾つて、正直のところ、かしは手をならして合掌した。これはまさに奇蹟だと思つた。神の存在については今もつて半信半疑の私であるが、神を信じたいと思ふことは、思つてはならないことではないはずだと知つた。」

おすすめ度 ★★★☆☆(星3。「老境文学」というテーマだと、老人の死を目前にした悟りきってのつぶやき、といったイメージだが、この作品は、そういうくくりには収まらず、力強さもあり、みずみずしい)


※図書館で借りたので、貸し出しはしておりません。




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